親しい仲での金銭貸借とありがちな問題点
親しい間柄でも借用書は作るべきです
金銭の貸借契約は、「貸す」「(返す約束をして)借りる」という意思表示のほか、現実に金銭を受け渡すことが要件となります。
当たり前の話しとして、実際に金銭の貸借をするとき、貸主であれば「貸す」という言葉と「(お金を)あげる」という言葉を使い間違うことはないでしょうし、借主は「借りた」ことを認諾し、また「返す」ことを必ず約束しているはずです。
しかし、言葉だけの約束は、後日のトラブルの元になりがちです。
借主が、聞き違いや勘違いを理由として返済を渋ったり、また、利息を付けない約束だったにもかかわらず、貸主が利息を請求してくるということもあります。
- 「そうは言ってない、約束が違う」
証拠(借用書)が無いと、この言葉を使う可能性が高くなります。
特に、親しい間柄で起こりやすいものです。
- 親しい仲では口約束が多くなりがちです。
親しい仲なんだから、わざわざ言わなくてもわかるだろう、分かってくれるだろう、というような心持ちがその根拠でしょう。
そのような、相手を思いやったり、敬ったりする気持ちが先に立ち、自分を守ることをおろそかにした結果、「言った、言わない」につながるのではないでしょうか。
そもそも厳密に考えたとき、お互いをよく理解している親しい間柄であるなら、約束事を書面にすることはなんら問題が無いはずです。
しかし、現実はそうそうまく運びません。
精神論はさておき、改めて申しますが、口約束には何の保証もありません。
自分を守るのはあくまでも自分です。
たとえ僅少な額といえども、貸す側にとっておろそかにできない額であれば、借用書を作るべきでしょう。
いくら位の貸借から借用書を作るべきか
実際、いくら位の金銭貸借から借用書を作るべきか、という問題があります。
貸す方にとって、自分の生活に支障がない金額であり、また、いよいよのときには債権を放棄(返してもらわなくてもいい)してもよい、というような貸借であれば借用書は不要でしょう。
一方、そのような金銭的余裕のない方や、一所懸命働いて貯めたお金を「仕方なく貸す」という場合は、たとえ僅少な額といえども、おろそかにできないはずですから、万一のことを考えて借用書の作成を貸借の条件にするべきでしょう。
「自分を守る」
それが借用書を作る本来の目的ですから、借用書を作る・作らないは当事者の事情により決定すべきことであり、金額の大小や世間体などを気にする必要はない、と考えます。
また、小さな額でも積もれば大きな金額になります。
再三にわたり借金を申し込まれるような状態であれば、たとえ少額でも借用書は残しておくべきでしょう。
借用書への署名とタイミング
金銭貸借は、事前の申し込みがある場合のほか、突然持ちかけられることもあります。
貸し渡しの前であれば、借用書を用意することも可能になるでしょうが、突然の申し込みの場合は、しっかりした借用書を用意できないこともあります。
そのような場合はたとえメモ書きでもいいですから、少なくとも次の事項を書面に残すようにします。
- 金銭を貸し渡したこと
- 貸し渡した金銭の額
- 貸し渡した日付
- 借主の署名(+押印)
重要なことは、現実にお金を渡すことと、借用書への署名(+押印)を同時引換とすることです。
このタイミングは非常に大切です。
特に、事前に借用書を作ることにしていたにも関わらず、借主が「ハンコを忘れた」、「急いでいるから、あとで正式に作ろう」などと、理由をつけて借用書(金銭消費貸借契約書)への署名押印を後日に伸ばそうとする場合は要注意です。
また、貸主が心の優しい方や気持ちがおとなしい方であることを借主が心得ている場合は、言葉巧みに自分に都合の良いように話しを進めていくことも往々にしてあります。
お金の貸借に関しては、お人好しであったり、他人を信用しすぎると、思わぬしっぺ返しを受けることもあります。(私も経験しております。)
時には、氷の心で対応することが、自分を守ることにもつながります。
お金を貸すときは、出来る限り、借用書への署名押印と引き換えにすることを心がけてください。
相手から「面倒だ」「私を信用していないのか」等と言われるのであれば、「譲れない条件」として相手に対応してもらうか、またあまりにも一方的な申し入れなら貸借をやめることも選択肢です。
なお、お金の貸渡し時に借用書を作らなかった場合は、後日に「債務承認弁済契約書」を作って債権債務を明確にしておく方法もあります。
但し、現実に貸し渡したあとに作る文書ですから、当事者双方(特に借主)の協力が不可欠になるため、作成が困難になることもあります。
ですので、やはり、貸し渡し時にしっかりした借用書(金銭消費貸借契約書)を作成しておくことが望ましいでしょう。
借用書(金銭消費貸借契約書)を用意すべき人
借用書(金銭消費貸借契約書)は、本来、貸主・借主のどちらが用意しても構わない書面ですが、一般的には貸主が用意したものに当事者全員が署名押印して完成させます。
しかし、事情によっては、借主自ら費用を負担し、借用書(金銭消費貸借契約書)を公正証書にすることもあります。
これは、誠意をもって返済義務を果たす意思があることを貸主に認めてもらい、貸借をスムーズにさせるために借主が取る手段としてです。
このように、貸主・借主という立場に関わらず、人間関係や貸借に至るまでの経緯などによって、契約書を用意する方が決まることもあります。
債務承認弁済契約書や金銭準消費貸借契約書は、金銭貸借時に借用書を作っていなかった場合や、既存の債務を変更したり、不法行為から生じた損害賠償金支払債務について定めるときなどに利用する契約書のため、その性質が単純な金銭貸借と異なることが多く、ほとんど債権者側が用意されます。
なお、契約書を用意する側の「自分に有利な内容にしたい」との思惑から、他方当事者にとって不利な条項が定められることもあります。
契約内容は当事者が自由に定めることができますので(契約自由の原則)、そのような一方当事者に不利な内容も、原則として有効です。(但し、契約書の内容が適法性や社会的妥当性等に欠けていれば、その全部又は一部が無効になり得ます。)
一般的に契約書は、貸主(債権者)に有利な内容になりがちです。
これは、借主(債務者)に不履行があった場合に、できるだけスムーズに債権を回収できるようにするためです。
借主側にしてみれば、自分に不利となる契約内容は本来受け入れることはできないでしょうが、立場上、貸主に再考依頼をできないのが現実で、致し方のないところでしょう。
いずれにせよ、契約の当事者全員が、書面の内容を十分確認した上で契約を締結することは申すまでもないことです。